2023/10/29 「地獄ではなく、天の父を恐れよ」 マタイによる福音書10:26~31 協力牧師 中野 実

◇ 今日の聖書箇所には、見慣れない「ゲヘナ」という言葉が出てくる。過去の日本語訳聖書のほとんどが「地獄」と訳してきた言葉である。しかし「地獄」という言葉には中世に展開された因果応報的イメージが強く結びついており、聖書が語っていることとは異なっている。創世記にあるように、神様はこの世界を極めて良いものとして創造された。だが人間の罪のために被造物全体が苦しみ、神様の御心とは程遠い存在になってしまった。この世界の現状をこのように理解することもできるだろう。しかし神様は、御心に相応しくこの世界を造りかえるために御子を送られた。いわば神様の新創造プロジェクトである。その働きに召し出されたのがクリスチャンである。私たちは小さい。しかし神様のご計画の重要なピースである。神様はこの地上の現実を正しく裁かれる。それが神様の御業である。

◇ゲヘナとはヒノムの谷の意で、エルサレムの城壁の外のゴミ捨て場のようなところであった。そこでは火がつきなかったので神の裁きの場を意味するようになった。しかしイエス様はゲヘナを恐れよ、とは言っておられないことに注意しよう。私たちはこの社会、人間関係、自分の弱さなどを恐れる。しかしそれらは恐れるに足りないものばかりである。問題は、本当に恐れるべき方を恐れていないことである。人間存在の全てを、存在しないかのように消し去ることのできる、父なる神のみを恐れるべきである(28節)。それこそが人生を健やかに歩む道なのである。

◇父なる神様は恐るべき裁き主である。しかし2羽で1アサリオン(数百円)で売られている雀の1 羽でさえ、大切に守られる方なのである(29節)。そして私たち一人ひとりのことをよくご存じなのである(30節)。だから私たちは、主のみを恐れ、主のみに信頼して、この世の旅路を安心して健やかに歩んでいくことができるのである。 (要約:太田好則)