2007/1/14 礼拝説教
「真理はあなたたちを自由にする」
元衣笠病院牧師 木村 知己先生
ヨハネ福音書8:31−38
◇ヨハネ福音書が伝える主イエスの言葉は我々の胸に厳しく迫る。中でも8:31には、現代に生きる我々の生活姿勢を根底から問われる気がする。この「真理」とはヨハネ福音書が繰り返し宣言する「命なるキリスト」、「世の光なるキリスト」である。
◇「ヨハネ福音書」編纂に当たった教会(1世紀後半〜2世紀前半)は、ギリシャ・ローマ世界の発展の中で多様な文化と経済発展により混沌とした状況にあった。一方に金銭的繁栄を謳歌し浪費と虚勢に満ちた生活があり、その反動でグノーシス主義と呼ばれる人為的「知恵」を主流とする思想傾向が波及し、教会は不安定な状況にあった。
◇ヨハネ福音書は、この混沌とした状況にある教会の信仰を確認するようにイエスの言葉を問いかける。「わたしの言葉にとどまるならば、あなたは本当にわたしの弟子である」(31b)と。イエスの「言葉にとどまる」とは、「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩まず、命の光を持つ」(8:12)ということである。キリストにある「命」と「光」はこの世の富や権力では得ることの出来ないものである。それゆえ、「イエスの言葉にとどまる」とは、この世を支配しようとする世の富や権力「から自由」にされることであり、また、「命」と「光」は心を支配する様々な不安や苦悩や過信など人の驕りと弱さから解放し、主にあって生きる「自由」へと導く。
◇イエスを信じたはずのユダヤ人たちは、「どうして『あなたたちは自由になる』と言うのか。アブラハムの子で奴隷になったことはない」と抗議し反論する。確かに律法を厳守し、伝統を守ることは大切である。しかし、我々の罪の贖いのために十字架にかかり、死んで復活した主イエスの愛と憐れみなくして、また我々の「命」であり「光」である「真理」を受け入れない限り、我々は真実な「自由」を得ることが出来ないのである。
◇私は教団が設立した唯一のキリスト教病院の再建と共に「病院付牧師」としてベッドサイドの心の援助に当たった。80年代より日本の死亡原因の第一位が「癌疾患」となり、“治癒困難”な患者が多く病床にあった。ある患者は学生時代に教会へ導かれ受洗した。その後の社会生活で地位を得て多忙な日々を過ごしていたが、体の不調を訴え大学病院を受診。病状は既に“治癒困難”で転院してきた。“自由”に能力を発揮する日々から一転、病床の“不自由”さと共に死の不安に苦悩する日々となった。困難な病床訪問の時を経て、聖書の言葉に耳を傾けるようになった。「主はわが牧者…緑の牧場に伏させ…たとい死の影の谷を歩むとも…」(詩23)を涙を浮かべて何度も聴いた。キリストにある「命」と「光」は心の重荷から我々を自由にし、愛と憐れみにより主イエスにあって希望に生きる自由へと導く。「真理はあなたたちを自由にする」とは、まさに真実である。
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