◇主イエスは神の国の接近を告げられただけでなく、その到来のしるしを、言葉と働きによって与えられた。この神の国運動の特徴は、それまでのユダヤ社会で、汚れた人たちとして排斥差別されてきた人びとー徴税人、罪人、売春婦などーに、主イエスが罪の赦しを与え、神の民として受け入れ、弟子とされたことである。
◇このような運動は主イエスお一人でなされたものではなく、十二弟子なども伴われた。しかしルカ福音書の今日の箇所には、女性の弟子たちのことが男性の十二人と並んで挙げられている。キリスト教はその最初から男女対等な弟子集団を形成していた。これは、家父長制の強固な古代においては非常に顕著な事態であった。
◇福音書の中には、女性信徒の行動で注目されるべきものがある。ナルドの香油の物語は、主イエスの最期の危機状態において、女性信徒がイエスに任職の油を注ぎ、イエスのメシアであることを宣言したのである。復活のイエスに最初に出会ったのは女性信徒であり(ヨハネ20:14)彼女たちの家からキリスト教会が発足した。
◇最初のキリスト教会は「家の教会」であり、そこでは、男女対等な形で伝道と教えと奉仕が推進された。フィリピのリディア、「プリスキラとアキラ」、パウロの女弟子のテクラも有力な伝道者であった。古代の後期から教会も家父長的な影響を強く受け、男性教職制となった。しかしパウロにおいても神の子としての対等意識は明瞭である(ガラテヤ3:28)。
◇このような男女対等の共同体としての教会において、その共同体制は何であろうか。主イエスは男性の弟子たちから権力支配の要請を受けた時、「仕える者」の道を示された(マルコ9:35、10:43~45)。主イエス御自身が「仕える者」であられた(ディアコノス・イエースス)。これは、教会の体制にとどまらず、社会においても「仕えるものとしての指導性」(servantreadership)(池田守男)が要請されている。