|
1.はじめに
高齢になると誰でもいくつかの病気を経験するものです。そして治療のために入院したり、薬を飲んだりしている高齢者が多いと思います。今回の講演では、個々の病気の治療に関してではなく、これから病気にかからないために毎日どの様なことに気をつけて過ごせばよいか、ということを述べさせて頂きます。難しい健康法ではなく、日常生活の中でちょっとだけ気をつければ健康が得られると思います。
2.生活習慣病
現代人は環境の変化に伴うさまざまなストレスに苛まれ、時間に追われて忙しく毎日を送っています。しかし、ちょっとしたことで生活のリズムが壊れると疲労、睡眠不足、精神的不安定を来たし、ついには肉体的・精神的異常を来します。これらの異常は高血圧、脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、糖尿病、高脂血症などの疾病を引き起こします。これらの疾病は生活習慣病と呼ばれます。
肥満を持つ人が上記の生活習慣病を複数合併している場合、これはメタボリックシンドロームと呼ばれ、生活習慣病を持たない人に比べて脳・心臓血管系疾患に罹患する確率が数倍高くなることが知られています。
これらの生活習慣病を引き起こす原因としてはストレス、慢性的な疲労、睡眠不足、肥満、塩分の過剰摂取、飲酒、喫煙、運動不足などが考えられます。
3.自分で出来る健康促進
生活習慣病を予防するための健康管理法を以下の順で述べたいと思います。
1)血圧管理;高血圧症の予防 2)食生活の改善;肥満、高血圧症、高脂血症の予防 3)運動;肥満の予防 4)正しい入浴;突然死の予防 5)気;自律神経のコントロール 6)祈り;キリスト者に与えられた癒し
1)血圧管理
・正常血圧:2004年のWHO(世界保健機構)が設定した正常血圧は130/85mmHg未満とされ、140/90mmHg以上はすべて高血圧症と判定されています。
・血圧の日内変動:血圧は誰でも一時として一定ではなく、刻々変動しています。健康人の一日の血圧変動を見てみると、睡眠中は平均109/63mmHgと低く、日中は平均127/80mmHgで経過します。特に夕方は高めになり、夕食後は次第に低めになります。
・自宅での血圧測定の重要性:大多数の高齢者は動脈硬化のために高血圧症に陥りますが、自分の血圧がいくつ位なのかを知らない人もいます。また、病院で血圧を測定すると心理的な緊張感のために血圧が上昇する場合があります(病院高血圧、白衣高血圧)。この場合も自宅での血圧を知らないと、高血圧と判断されて医師から降圧剤を処方されてしまうことがあります。正常血圧であるのに降圧剤を服用すると思わぬ副作用を来すことがあるので要注意です。このためにも自宅での血圧測定が必要となります。
・自宅血圧の測定法:@手首や指で測定するものではなく、腕(上腕部)で測定する血圧計で測定する A朝食前に食卓で座って測定;この時、心臓 - 上腕 - 血圧計がほぼ同じ高さになることが大切 B測定前に1-2分の深呼吸、測定中は器械を見つめず、目を閉じて 深呼吸を続ける C一定側で測定;利き腕の反対側で測定する D測定値をノートに記録し、主治医に見てもらう E頭痛、めまいなどの日常的な異常自覚症状を感じたときはすぐ血圧を測定する
2)食生活の改善
・肥満の予防;総摂取カロリーの制限が基本です(1800Kcal/日以下)。このためには主食、副食を普段より1-2割減らしてゆっくり良く噛んで食べることが大切です。但し、3大栄養素およびミネラルのバランス良い摂取を心懸ける必要があります。さらに間食や過剰な甘味の摂取を控えることも必要なことです。
・高血圧症の予防;食塩摂取量を6g/日未満とします。またカリウム、マグネシウムの豊富な野菜・果物(キャベツ、バナナ)を積極的に摂取します。
・高脂血症の予防;乳製品(高脂肪牛乳、チーズ、バター)、鶏卵、魚卵(イクラ、数の子、タラコなど)、獣脂の摂取を控える必要があります。
3)運動;肥満の予防
適切な運動量:運動時の心拍数が112/分程度となるような加重をかけた運動が必要です。また、毎日30分以上の運動を続けることが大切です。食後よりも食前に運動を行う方が肥満の予防には合理的といわれています。
4)正しい入浴法;突然死の予防
誤った入浴法のために、年間数千人が入浴中に死亡しています。救急車で病院に搬送された心肺停止状態患者の約7%が入浴中に浴槽内で発症しています。
入浴中の死因は心臓死(心筋梗塞など)、脳血管障害(脳出血、脳梗塞など)が約88%を占めています。このことは入浴中の血圧や血液粘度などが大きく影響していることを示唆しています。
安全な入浴法の基本は、入浴による
@血圧の急激な変動を来さぬこと、
A胸腔内圧の急上昇を来さないこと、
B脱水などによる血流の遅延を予防すること、などです。
このために、以下の点で注意が必要です。
@入浴前から脱衣場および浴室の温度を暖めておくこと;血圧変動を抑制
Aお湯の温度を40℃以下の微温湯で入浴すること;入浴中・出浴後の血圧変動を抑制、血液粘度上昇を抑制、
B半身浴;胸腔内圧上昇を抑制、心・脳血管障害の発生予防
C反復入浴:入浴後の保温保持
D入浴前後の飲水励行;脱水予防、血流改善;脳梗塞予防
5)気;自律神経のコントロール
はじめに自律神経は交感神経と副交感神経に大別されます。前者は興奮、攻撃の働きを、後者は安らぎ、平穏、睡眠の働きを支配している神経機構です。
「気」は自律神経機能と密接な関係にあると思われます。例えば「気合いを入れる」「気を引き締める」などの「気」は気持ちを高める、すなわち、緊張、興奮、闘志など交感神経の機能に関わっています。一方、「気を抜く」「気持ちがいい」などの「気」は気持ちを穏やかにする、すなわち、緊張をほぐす、柔和、安らぎ、心地よさなど副交感神経の機能に関わっています。
先に述べた入浴法でも、高温浴では交感神経が刺激を受け、血圧上昇、脈拍亢進(頻脈)、血管収縮など、心・脳血管系に悪影響を及ぼす効果が現れます。しかし、例えば試験勉強などで眠気が差して仕方がない時は熱い湯に浸かって眠気を覚ます、ということもあります。一方、微温浴では副交感神経の機能が高まり、例え10分、湯に浸かっていてものぼせることはなく、逆に血管が拡張し、血圧は降下し、脈拍も緩徐になり気持ちよさのために眠気さえ出てきます。言ってみれば自宅のお風呂でも温泉気分になれる訳です。
「気」は「気の持ちよう」という言葉もあるくらいで、気の持ちようで交感神経機能を高めることも副交感神経機能を高めることも出来ます。そしてその切り替えの上手、下手が心の病に取り憑かれるか、その危機を乗り越えることが出来るかを左右すると思います。
6)祈り;キリスト者に与えられた癒し
祈りは直接的には生活習慣病の予防とは関係ないと思います。しかし祈りは日常のストレスなどに苛まれているキリスト者には心の平安を与えられることで安らかな日常生活を過ごすことが出来ると思います。
祈りは神様を前にして唯一、神様と直接会話をすることが許された時であり、常に真剣な時ですが、私たちにとって、主イエスがゲッセマネの園で祈られたように、滴る血のような汗を流して祈ることも難しいことかと思います。私は祈りとは神様に自分の思いがかなえて頂けるように真剣に祈り、それが神様に聞き入れて頂けて、心の癒し、霊の慰めを与えて頂いた時に真剣に感謝し、神を讃美いたすことと考えています。人間はいつも緊張し放しでは生きて行けません。やはり「気を抜く」時を持たなくてはならないと思います。私たちキリスト者は心の重荷を主に預けることを許されていると信じているからこそ、毎日の艱難を乗り越えて過ごせるものと思っています。
4.終わりに
これまで述べてきました健康促進術は今、健康を損なわれて病院に通っておられる方も、幸いに健康を守られて平穏に毎日を過ごされている方も、これからのご自身の健康を維持するために気をつけて頂きたいことを羅列したものですが、決して無理な内容ではないと考えています。健康促進は他人から与えられるものではなく、ご自身で努力、工夫しながら会得するものと思っています。そのためには良きアドバイサーが必要で、そのためには良き掛かり付け医を持っていることが 大切なことです。また健康診断を積極的に受け、疾病の早期発見、早期治療を受けられることが大切なことと思っております。こうした思いでお話ししました今回の講演が皆様の健康促進にいくらかでもお役に立てれば幸いです。
|